■世界のシネマ散歩《第13回》『シリアの花嫁』 (原題)THE SYRIAN BRIDE
≪ストーリー≫
1967年の第3次中東戦争でイスラエルに占領された元シリア領ゴラン高原の小さな村では、親シリア派でイスラム教の厳格な父親の家庭で育った次女モナがシリア側の親戚筋の人気俳優タレルとの結婚式の準備に追われていた。2000年、結婚式当日は折しもシリアの新大統領就任式の日、イスラエル領となった村でも盛大な祝賀デモで騒然とする中、花嫁の2人の兄も海外からお祝いに駆けつける。弁護士の長兄は生まれた地を離れ父親と絶縁状態ながらロシア人女性と息子を連れ、独身の次男はイタリアで商売に成功しプレイボーイぶりに磨きをかけていた。花嫁は朝からヘアーサロンに行き、そこからビデオカメラが入りと日本と変わらぬ結婚式当日のシーンで始まり、自宅での宴会、家族、知人との別れと続く。シリア側国境で今や遅しと花婿が待ち構えるなか、花嫁は国境を超える手続きを始めるが・・・。
≪ビューポイント≫
中東問題の一面を知るには格好の映画である。監督はイスラエル人、脚本はパレスチナ人、プロデューサーはフランス人とドイツ人で、2004年モントリオール映画祭でグランプリを受賞した。主演の姉アマルを演じるのは、国際的パレスチナ系イスラエル女優のヒアム・アッバス。ゴラン高原には、「叫びの丘」というエリアがあり、今でも地域を引き裂かれて行き来が出来ないシリアの人達が拡声器をもって、鉄条網越しにお互いの無事を確かめあっている。映画は冒頭から浮かぬ顔の花嫁モナと勇気づける姉アマルの姿を描き始めるが、その訳は、テレビや映画でしか見たことがない花婿との結婚の不安のみならず、シリア側に嫁げば二度と両親、姉妹がいる今の地には戻って帰れない事情にあった。前半から結婚式にまつわる中近東特有の儀式も随所にみられる。頑固な父親の横暴さ、村の長老達の偏った宗教的意見、長兄の嫁であるロシア人女性に対する偏見等狭いイスラム社会の悪癖がイスラエル人監督によって描き出されるが、その中にあっていずれも毅然として、古い習慣に囚われずイスラエル領であることを受け入れ、前を向いて進む姉をはじめとする女性達の溌剌さが美しい。
最後の30分ほどは、いかにも中近東らしいメンツを重んじた融通の利かないシーンがいくつもあり、花嫁は無事シリアに嫁げるのかイライラさせられる。花嫁たちはイスラエル領ながらイスラエル国籍取得を拒み無国籍パスポートを持つ人たちなのだが、シリアに出獄する際、出国スタンプをイスラエル側に押されてしまう。それを見たシリア側のイミグレーションはゴラン高原はシリアの領土でありシリア領内の移動なのだから出国スタンプを消せと言い張る、その後スタンプを修正液で消したり、担当のオフィサーが木曜日の午後で帰ってしまったりと、国境をまたいでこの件で走り回る国連監視軍の女性スタッフ(彼女は、フランス人で仕事の最終日なのにこのため飛行機に乗り遅れる)のあきれた姿が面白い。97分と比較的短い映画だが、この地域にまつわる深刻な諸問題をユーモアを交えながら満載しており、構成、脚本の良さは一級品である。「乳と蜜の流れる土地」と称された肥沃な大地と降り注ぐ太陽の光の中で繰り広げられる悲劇が早く終息し、この地の人々が自由に往来できる日が一日でも早く来ることを祈るばかりだが、最後に花嫁が取った行動が救いでもある。(Ryu)
製作国)イスラエル・フランス・ドイツ
(日本公開)2009年2月
(上映時間)1時間37分
(監督)エラン・リクリス
(脚本)スハ・アラフ
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