世界のシネマ散歩≪第15回≫ 『縞模様のパジャマの少年』 (原題)THE BOY IN THE STRIPED PYJAMAS
≪ストーリー≫
第2次大戦下のドイツ、ベルリン。ナチス高級将校を父に持つ8歳の少年ブルーノは父の転勤のため、母、姉と共に住み慣れたベルリンを離れ郊外に引っ越す。殺風景な田舎町の大邸宅に移り住んだブルーノは、学校もなく友達も見つからぬ日々にすっかり退屈してしまい、禁じられていた裏庭を抜け森を探検をしているうちに有刺鉄線のフェンスで囲まれた「農場」を見つける。そこで縞模様のパジャマを着た同世代の少年シュムールを見つけたブルーノは、フェンス越しに話をするうちにゲームやボール遊びをする仲になる。シュムールは常にお腹をすかしておりブルーノにチョコレートやパンをねだるが、友達を失いたくないブルーノはせっせと食糧を運ぶ。ある日シュムールの父が行方不明と知らされブルーノはフェンスの下に穴を掘ってシュムールの父を捜すのを手伝いに「農場」に入っていく・・・。
≪ビューポイント≫
弱冠40歳のアイルランド人ジョン・ボイン原作の本作は、アイルランドでベストセラーになったほか、日本を含む世界30カ国で出版された。本作はイギリスとアメリカにより制作されておりドイツは全く絡んでいないナチスの映画だ。ゆえに台詞は全て英語で多少違和感はあるが、原作自体の史実考証がしっかりしておりその史実を忠実に再現した作品として高い評価を得ている。登場するナチス青年将校の軍服や皮のコート姿はどれもスタイリッシュで素晴らしく当時の高級感あふれる軍服そのものだ。映画関係者、特にハリウッドにはユダヤ人が多いので、ナチスの残虐性を追求したホロコースト映画はひとつのジャンルを形成するほどに多いが、本作品は、戦闘シーンもなく、ただただ当時のナチス高級将校の家族の心情を父親本人も含め、祖父母、母、姉と丁寧に描いている。冒頭、収容所所長に栄典する父の歓送パーティで息子を自慢する祖父と密かに蔑む祖母、ただ夫と国家の行方に従う母がいる。引っ越した後の生活も家族の心情を中心に描かれているが、手伝いのユダヤ人との接触を避け、最後には夫の仕事を知って精神を病む母、抱いていた人形を捨てナチスのポスターを部屋中に貼り、アーリア人、ドイツ帝国は最高と唱える家庭教師に感化される姉に、無垢な主人公ブルーノ少年は戸惑う。実際に第2次大戦末期のドイツは日本と同じく、ドイツ帝国絶対勝利とそのためのユダヤ人排斥が国としての方向だったのだろう。
主人公となる2人の少年はオーディションで選ばれたそうだが、当時の上流階級の少年とユダヤ人の寂しげな少年そのままの瞳がとても美しい。また脇役陣も秀逸だ。父親役のデヴィット・シューリスは、「ハリー・ポッター・シリーズ」のルーピン先生でおなじみだが、本作では、国のために忠誠を尽くし任務に邁進しながらその仕事が故に、妻を精神的に追い込みながらも、娘、息子にとっては最高の父親としての信頼を取り繕う難しい役をこなす。夫に尽くしながらも最後に狂ってしまう悲劇の母役を演じるヴァラ・ファーミガは「マイレージ、マイライフ」でジョージ・クルーニー相手に粋な恋人役を演じていた。この原作は史実に忠実とはいえフィクションゆえに、白昼、フェンスの下に穴を掘って入れるほど、収容所の監視は甘くないだろうとか、いくら子供でも当時「農場」と呼ばれていた所がどんな所かぐらいは知っていただろうという批判はあるが、原作者は実際にアウシュビッツやソビプルの絶滅収容所の所長回顧録を読み、彼らは決して収容所の中身を家族にも明かさなかったし、当時のナチスは、楽しい「農場」のプロパガンダ映画を作成しており、8歳の利発な少年がその映画を見て楽しそうな「農場」と間違えたことは決して突飛なことではないと言っている。
この作品の最後がどうなるか、観客には郊外に引っ越してきた時点から想像がつく展開だが、皮肉っぽいタイトルと共にこのバッド・エンドは無垢な子供を巻き込んだ戦争映画の宿命として是非見てほしい。(Ryu)
(製作国)イギリス・アメリカ
(日本公開)2009年8月
(上映時間)1時間35分
(監督・脚本)ポール・ハーマン
(原作)ジョン・ボイン「縞模様のパジャマの少年」
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