世界のシネマ散歩≪第14回≫ 『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(原題)THERE WILL BE BLOOD
≪ストーリー≫
1900年初頭のアメリカ、一攫千金を夢見て西へ西へと石油発掘を続ける親子連れがいた。男の名前はダニエル・プレンビュー、孤児を自分の息子として連れ歩く彼は、ある日ポールという青年から自分の故郷の土地に油田があるはずと言われカリフォルニア近郊のリトルボストンに向かう。うずら狩猟と称して野営しながら石油の存在を確信したダニエルはすぐさま貧農にあえぐポールの父親の土地を安値で買収し石油発掘に着手する。故郷を捨てたポールには地元で第3の啓示協会と称してカリスマ牧師を務めるイーライという双子の弟がいた。父が安値で土地を売ったことに怒りダニエルに洗礼と協会への寄進を迫るイーライは、やがてダニエルを脅かす存在となっていく・・。
≪ビューポイント≫
本作はアメリカの社会主義作家アプトン・シンクレアの小説「OIL!」が原作になっている。この作家は多くの社会的ジャンルを題材とし「ジャングル」という作品でアメリカ精肉産業の実態を告発し、後に食肉検査法を成立させたそうだ。本作ではダニエル・プレンビューという石油王の生涯を通してアメリカ石油開発の歴史を追う。監督は御存知「マグノリア」で天からカエルを降らせて観るものを震撼とさせたポール・トーマス・アンダーソン、娯楽性を排除し予定調和のない不気味さがシンセサイザーの音楽と共に観客に忍び寄る。本作は2007年アカデミー賞の作品賞はじめ最多7部門にノミネートされ主演男優賞と撮影賞に輝いた。2度目の主演男優賞を受賞したダニエル・デイ=ルイスは野望に燃えて、極貧の金鉱労働者から石油王となる希代の山師を2時間38分間でずっぱりで演じきった。前作「NINE」で映画監督の苦悩を描くブロードウェイミュージカルを華麗に演じた同じ役者とは思えない脂ぎった男を骨太に演じる。
原題がそのまま邦題となった本作だが、原題以外はピッタリとした題名はなかったのかもしれない。弱肉強食の石油ビジネスにまつわる社会派映画化とは違い、無宗教の石油王と宣教師の確執が主眼となりすべての場面が血にまつわる。小道具として連れ歩く拾い子を溺愛する歪んだ親子の血、偽の弟の出現に優しく振舞い最後には殺してしまう兄弟の血、狂気の宣教師イーライとの救いの神、キリストの血を巡る確執で最後には頭に血が上る。石油イコール悪魔の血となる妖怪ダニエルの一生。
ハリウッド期待の若手ポール・ダノが演じる狂気の宣教師イーライも見ものである。1900年代初頭のアメリカ中西部のキリスト教布教の歴史が本作では石油開発と同時進行で進むが、そこには敬虔なクリスチャンとしての農業入植者がおり、バラック小屋で行われるミサで悪霊を払ってくれる宣教師を盲目的に信じ寄進を続ける。神を信じない無宗教のダニエルを疎ましく思っているイーライだが、ガス爆発事故で息子が難聴になった時に「神は無力か!」とダニエルになじられる。イーライは悪霊払いの預言者となり布教の旅にでるがうまくいかず失意のまま故郷に戻ってくる。イーライがダニエルの大邸宅を訪れ、約束の寄進を果たせ、金をくれと迫るラスト15分のやり取りが圧巻だ。飲んだくれの石油王ダニエルと落ちぶれた預言者イーライの死闘の場面は、何故か自宅にある2レーンのボーリング場だ。波乱に満ちた石油王の一大叙事詩がボーリングのレーンの上で終息する。石油開発、ボーリング・・・・。そしてエンディングのブラームスのバイオリン協奏曲の前に彼が最後に発した言葉が物悲しい。(Ryu)
(製作国)アメリカ
(日本公開)2008年4月
(上映時間)2時間38分
(監督・脚本)ポール・トーマス・アンダーソン
(原作)アプトン・シンクレア「OIL!」
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